野生動物セミナーで『アライグマ問題』について 講演 ‼

明けましておめでとうございます。年明け早々、本日のセミナーにようこそお越し下さいました。本日のテーマは、「北海道のアライグマ問題、初期に状況について」です。始めに、当時の状況報告を兼ねて、自己紹介をさせて頂きます。との挨拶からセミナーを始めました。

会場である北海道博物館の前で(1/8 AM10:00)

私は平成11年3月、道庁を退職し、北海道森林整備公社に就職しました。公社の仕事は、北海道が所管する道有林の管理の代行が主な仕事でした。ところが、公社に入って2年目に、道央を中心に米国原産のアライグマの農業被害が増大し、道の委嘱を受け、アライグマの捕獲事業を始めることになりました。

当時は、北大の池田透先生が中心となって、アライグマの生態、箱ワナで捕獲するのに必要な技術、アライグマの持つ病気や寄生虫、生態系に及ぼす影響などについて海外の文献などを集められ、又、自分の研究室や酪農学園の学生などからなる「アライグマ研究会」を支援していました。そして、野幌森林公園をフィールドに調査・研究を行っていました。 平成8、9年頃は、野幌森林公園でアオサギコロニーが消滅し、恵庭市が有害鳥獣駆除で100頭近くを申請したが、期間内に達成し追加申請をしたり、恵庭1市でアライグマの農業被害が全道の大半を占めていた時期でした。しかし、当時大問題となっていたのは、増大するエゾシカに対する「エゾシカ保護管理計画」という新施策でした。また、全道エゾシカ被害40億円に比べ、アライグマは1~2,000万円程度と0.5%と小さく始まったばかりでした。

公社に入って2年目のH12年、これまでのヤチネズミに替わって、アライグマの捕獲・調査・事業が始まりました。そこで考えましたのは、  何処に どんな風に ワナを仕掛けたらよいのか?  具体的には次の6項目でした。

セミナーでの講演風景(1/8)

1 アライグマとはどんな生き物か

2 どこにどうな風にワナをかけるのか

3 どんな餌を使うのか

4 いろいろな問題点(①ワナの稼働・錯誤捕獲  ②効果的なワナのかけ方等)

5 明らかになった「アライグマの生息環境」

6 野外からの排除の可能性

セミナー会場風景

以下、この6つの課題についてお話しします。

1.アライグマとはどんな生き物か

①分類  :哺乳綱/食肉(ネコ)目/アライグマ科/アライグマ属/アライグマ

アライグマに似る我が国の動物

②自然分布:北米~南米(アライグマ科8属17種 中国にはパンダ2属)

③形態 :頭胴長40-60cm 尾長(黒い輪4-10本)20-40cm 体重4-10kg 黒いマスク。足跡が特徴(5本指)しょ行性、タヌキ大。

④生息環境:都市部から森林・湿地帯までの水辺など(沙漠・高山を除く)いずれの植生にも生息。 巣は木の洞・岩穴・人家・畜舎等。

⑤繁殖生態:1-2月に交尾、3-4月に出産、年1産、1産3-6子、1雄多雌、1年で性成熟

⑥生態特性:夜行性、木登り・泳ぎが得意、単独性、縄張り無、休眠で越冬、食性は雑食     性であらゆる小動物、鳥類の卵・雛、昆虫、ミミズ、果物、野菜、穀類、死肉も漁る等極めて広い。行動圏 1-1,500ha  、寿命(野生下)13-16年 。

2 どこにどうな風にワナをかけるのか

畑等では所有者の了解を得ればワナ掛けは容易。

さて、職場の同僚は殆どが道庁の先輩ばかりでした。それ故、北大の池田先生の纏めた資料を基に、実際にワナを掛けようとすると、それぞれノネズミやノウサギなどの経験から、ワナの設置場所を決めるにも「あっちだ、こっちだ」と言ってなかなか決まらず、ワナをかける段階になっても、「ワナの入口は北だ、南だ」と言ってこれも決まらず、難航しました。いずれも、確信がないのに思いつきで発言している状況でした。

現状は、農家や畜舎のまわり、田畑などは、見通しのきくので、ある程度予測もつきますが、森林、原野の7・8月の夏の盛りでは、雑草で周辺を見通すことも出来ず、近くに小川があっても気付かず、又近づけませんでした。鎌や鉈で草を刈って歩く道を開き、その上にワナを掛る地点では約1坪の草を刈り、さらに鍬で地形を均しての設置ですから1個所設置するのに2~3時間はかかり、それを50~60個所ともなれば2週間もかかってしまいます。

川底にくっきり 特徴あるアライグマの足跡

このような中 上司M(前﨑)氏と2人で、ワナ掛け踏査中に、由仁町で小川のドロの中に、アライグマの足跡を発見しました。アライグマの足跡は、独特で他のキツネやタヌキ、イヌなどの犬属と全く異なる形でした。これは一度見ると忘れられません。前足も後足も5本の指がくっきりと長く分かれています。まるでサルの手のようで、これを発見した時は大声で叫びました。足跡だ!!と。

足跡の確認により、アライグマ生息の可能性が確実となり、皆、足跡探しに夢中となりました。その結果、これまで、声が大きい、役職の上下で決まっていた判断が、実証的となり、ワナ設置に自信が持てるようになり、作業が格段に向上しました。

ところで、この年(H12)のワナ掛けの成果でありますが、最初の捕獲対象地は長沼町、由仁町、千歳市で、これに野幌森林公園全域が加わりました。7/5~10/28 の約4か月、ワナ設置数456カ所で、各3週間(21夜)の捕獲数は237頭でした。全体では9.765ワナ・日で、100ワナ・日当たり2.4頭とその後の捕獲事業と比べても素晴らしい成果でした。

(1) ワナ設置点の選定について(航空写真の活用)

捕獲対象地は、一地区2,000haにも及びます。その中に50個所のワナ設置点を選び出すのは至難のことです。しかも、それを出来るだけ均等にやらなければなりません。なぜなら、この事業の目的に、「その地域にどのくらいのアライグマが生息しているか」という、「生息数の調査」も入っているからです。下図は、地図と航空写真上のワナの設置・捕獲状況です。

馬追丘陵のワナ設置点と捕獲状況(地形図と航空写真上)

(2) 航空写真の判読

2年目の大きな課題は、ワナを掛ける場所は何処が最も効果的かを選び出す方法の開発でした。これは、これまでの仕事上、私の上司、Mさんと私の組み合わせが最適でした。Mさんと私は、若い頃、道有林の森林計画の立案が仕事で、一緒に航空写真の判読に関わる仕事をしてやっていました。

航空写真の判読とは、余り皆さんには聞き慣れない言葉でしょうが、航空写真とは、地上5,000mくらいの高さを飛ぶ飛行機から地上の全てを連続撮影したもので、そのダブって撮影した部分(60%)を実体鏡という機械を用いて立体視し、森林状況を判読する技術で、これを用いて樹高を測ったり森林地図(林相図)を作ります。MさんはS34年、愛媛大学を卒業後道庁に私より5年先輩として就職し、私と同じ業務を担当し、その間に航空写真技術を、国の研究機関で研修を受けマスターし、私が入った頃(S39)には母校で夏休みに非常勤講師として教えていました。

このMさんは、もう1つ特殊な技術の持ち主でした。それは、推計学の専門家で、やはり国の統計数理研究所の林知己夫博士から推計学の手法を学び、コンピューター時代に先駆け、写真判読と統計解析を結びつけ、この2つを武器に森林研究に取り組んでおられました。そこで私も、この2つをMさんから直接に伝授され、その後継者として同じ道を歩んできました。

そして、この2つを使って、ワナ設置点の適地を選ぶ手法の開発を行いました。ワナ設置点の立地を、土地利用、林相、植生など6つのカテゴリーに区分し、その地点の捕獲数との関係を、数量化Ⅱ類と言う林先生の解析方法で、コンピュータを使って分析し、明らかにしました。これは、2002(平成14- 15)年頃のことでした。 この結果、道央地域でのワナ設置適地が明らかになり、ワナ地点の選定問題は、ほぼ無くなりました。 なぜなら、ワナ地点を航空写真上で探し、そこに印を付け、あとはその地点に行けば良いのです。それ故、事前に最新の航空写真を購入し、写真を判読し、水の流れている小川や小さな池、地形、林相などを読み取り、その上で現場に向かいました。

3 どんな餌を使うのか 

どんな餌を付けるか、これも大問題です。餌については、これまで述べたように、既に北大の池田先生により色々検討されていました。

基本は、自然の中にあるものは使わない。例えばトウキビ、スイカやメロンの間引いたもの(不良品)等は、もし、餌だけとって逃げられた場合に、味を占め、それを目当てに再び畑の作物に被害が及ばないよう細心の注意を払い、これらを一切使わないことする。餌は全て人工物、人の手により作られたものに限定する。それ故、ドッグフードやキャラメルコーン、それに食パンが選ばれました。アライグマは甘党ゆえ、食パンは、「油で揚げて砂糖をまぶす」という手の込んだものでした。ハローワークを通して「パンを揚げ人」を雇用し、自宅で大鍋に油を沸かして何百枚という食パンを油で揚げ、それに、砂糖をまぶしてもらいました。これがアゲパンです。

しかし、この作業はなかなか大変な仕事で、長時間、油で揚げると、その匂いで具合が悪くなり、更に、アリや匂い、油汚れなど取り扱いが大変でした。

そこで考え、近所のスーパーなどでカツやフライ、天ぷらなどを揚げている惣菜屋に掛け合い、定期的に分けてもらうことにしました。この廃油は、極めて優れもので、過酷な仕事からの解放、コスト削減に加え、捕獲効率にも貢献しました。スパイスのきいた強烈な匂いが、アライグマの鼻に届き、誘い込まれたと思われます。

・ドッグフード ワナの周辺に撒き餌として使うドッグフードは、大量に使用されます。私は、草を刈ったあとでもよく見付かるよう、大型犬用の粒の大きな魚味を用いることに決めました。

・キャラメルコーン 1番コストが掛かるのは、子供にも人気な「キャラメル・コーン」でした。これは、1パック5ワナと決め、使用制限し、ワナの中の一番大事な「踏み板」前に限定しました。

・本命の「食パン」の加工 食パンは、大手製パン会社(ロバパン)と交渉し、パンの耳を何千枚と一括無料でもらい受け、乾燥させ、カンパン状にしてダンボールに保管し、使う時に半分に割って、砂糖入り廃油を塗って、ワナの踏み板奥に「喰わせ餌」として仕掛けました。

4 いろいろな問題点  ① ワナの稼働・錯誤捕獲

(1)ワナの稼働状況について

ワナの稼働と混獲状況

H14~18の5年間の平均ワナの稼働状況と混獲動物についてみます。

1年間の平均ワナ・日, 14,000ワナ・日, の内77%約8割がワナを掛けたままの状態です。

10%がワナが閉じているが獲物なしの状態です。

これは風等で自然に閉まったのか、カラスが、ワナの上に止まったり遊んだりして偶然閉まったものか、又、ネズミなど小動物が掛かったが、網目の隙間から逃げ出したかなど色々です。

更に10%がアライグマ以外の動物が誤って捕獲(混獲)されています。

 混獲については、後ほど詳細にご説明します。

残る3%(詳しくは2.5%)でアライグマが捕獲されています。

ですから、この比率を3%、4%、5%と少しでも上げる方策を考えるのが、ワナ効率を高める方法といえます。

これらを再確認しますと、「凡そ8割のワナが開いたまま」で餌もなくなっていないというのは、アライグマが居そうも無いところにワナが掛けてあった、無駄な労力であったとなります。それ故、これを75%→70%、65%と下げることが出来たら、急撃にワナの効率をアップすることになります。

それには、ワナを掛ける場所の選定にもっと時間を掛ける、更には、設置ワナの状況、餌の撒き方などの改善が求められます。

(2)錯誤捕獲(混獲)ついて

次は、目的のアライグマが捕れずに、他の動物が掛かった10%の内容です。誤って捕らえた主な動物は、タヌキ36%、ネコ31%、キツネ9%、鳥ではカラス14%です。この4種で9割になります。 他には、イヌ、イタチ、テン、鳥ではカケス、ヤマドリ、ヒヨドリ、シギなどです。この対策は「如何に」と言いますと

猫にはノラと飼い猫の両方が居ます。飼い猫に関してはその近くの飼い主に、ワナ掛けの期間中は放し飼いをしないように話して了解を得ることです。これは犬についても同様です。

効果的なワナのかけ方。

タヌキは誠に扱いにくい動物です。タヌキは保護獣なので、ワナに掛かってもすぐその場で放すことにしているので、味を占めて又掛かるというリピーターが大半で、同じ個体が10~15回も掛かります。それ故、常に掛かる地点では、場所を変えるか、止めるか、もう1つワナを増やしダブルでセットする方法があります。 1つはタヌキの指定席で、もう1つでアライグマに対応するという戦略です。

次はカラスです。カラスは特にたちが悪いです。ワナを見回り餌をセットしていると、何処で見ているのか、立ち去るとすぐに数羽でやってきて撒き餌を食べ、満腹になるとワナの上で遊んでワナを閉めてしまう場合もあります、これは自動カメラをセットしてはじめて解りました。この場合には、カラスに見せない、見られないようにする。それには、低木の木陰などに見えないようにワナを掛ける、カラスが不安に感じるような、橋の下・建物の中など暗いところに掛ける、などで対応します。

5.明らかになった「アライグマの生息環境」

アライグマの好む生息環境

環境要因の分析から判明したのは、

・ アライグマの生息に影響が大きい環境項目は、土地利用、行動範囲(河川流域の規模)、林 相、水環境である。

・ 生息数の多い立地は、大森林に接した水田林縁や大きな流域を持つ河川や池の周辺、耕作   地などに隣接するの樹林地内である。一方、生息の少ないのは、人工林など針葉樹林。森林 流域を持たない用水路、原野、湖沼などである。 以上より纏めると、

アライグマは、主に人里離れた森林内に生息し、メスは、子育てや餌を求めて里山の人家、 畜舎周辺、大小の河川、森林沿いの田畑を徘徊する。オスの行動圏は大きく、殆どの立地に およぶ。アライグマの主要な移動ルートは河川沿いである。この移動ルートがワナ設置の最大の立地(ポイント)である。

全道の捕獲数と農業被害の経年変化

6.野外から排除の可能性

・ アライグマの捕獲数、農業被害は近年急増している。

・ アライグマは、天敵のいないわが国では生態系の頂点に君臨している。しかも、原産地より本道の方が恵まれた環境で性成熟も早く、産子数も多い。

・ アライグマは、いずれの立地でも生息するなど、極めて旺盛な行動力を持つ、外来の高等生物である。

・ ワナの稼働効率の向上と混獲防止対策は野外排除上極めて重要な課題であり、現在、その対策は不十分である。

・ 箱ワナのみの捕獲では、100ha当たり最低0.2頭が限度であり、目下、猛烈に区域、生息数を拡  大している。

以上より、

アライグマ対策は、抜本的な総合防除体制を確立しない限り、野外からの排除は極めて困難である、と考えます。

ご清聴ありがとうございました。

では、また!!

コメント

  1. 山根 より:

    勉強になります。