アライグマへの挑戦 その2

私が2000年から10年間、捕獲を継続した区域。今回の南幌町は紫の区域。

8/23 当別町で「アライグマ捕獲技術交流会」が開催され、そこに参加し、新しい技術「電気止め刺し」の実演を見た。 その後、認定捕獲事業者K社の要請があり、「被害対策アドバイザー」として現在実施中の(道)捕獲事業の現場を巡回し、ワナ設置上の改善点などについて意見を求められた。

対象地は、石狩平野中部の南幌町の農地(米、大豆、トウモロコシ等)で、収穫直前であった。広大な水田地帯の一角で、碁盤状に道路と水路が整備され、そこに農家が点々と見られた。  交差する道路や水路沿いには、ヤナギやギンドロ、シラカバなど早生樹種にヤチダモ、トドマツなどが混じり、1~2列、並木状に植えられており、老木には、倒れたり傾いたものも見られた。

石狩平野のほぼ中央部で夕張川、旧夕張川、千歳川に囲まれ地下水は高く、周囲の水田下の排水パイプから深さ2mもの排水溝に落ちた水は、停滞し流れは少なかった。

ワナの大半は、この排水溝沿いの並木の樹冠下(土地改良区の管理地内)に剥き出しで置かれ、場所によっては、ここ2週間の大雨でワナ内部まで浸水があり、撒き餌などは原形をとどめていない。ワナも水没したものもあったという。

農家の要望は、食害のあったトマトのハウスやトウモロコシ(デントコーン)畑への設置であるが、それ以外では了解が得られず、特に飼い猫のいる農家では殆ど設置出来ないという。要は、これまでの知見からもワナの設置適地は少ないが、これから収穫の始まる干いた水田内には、今年孵った中・小のカエル(エゾアカガエル)が自由に跳びはね、それを狙ってアライグマの足跡は随所に見られるが、そこにはワナは掛けられない状況である。これには、遠回りでも、知恵を出し合い捕獲を継続し成果を上げ、農家の理解を得ながら、ワナ設置の選択を広げていくほか方策は無いと思う。

ポイントとなる、ワナの設置方法については、基本的には問題がないが、設置期間が2~3週間と長期にわたるため、設置の際の整地、雑草の除去、巡回時のトリガーの点検、ワナ内の清掃、アライグマの動線と撒き餌の検討を指摘した。また、ワナ内の喰わせ餌には大型の煮干し(干イワシ)を追加した。

それから2週間後の9/23  再び南幌町の別の現場を見て回った。前回の個所にくらべ、並木、水路、多様な植生などから、一段と生息の可能性が高く、中には農道の轍あとに数時間前のものと思える足跡が見られた。

この2週間の間に、「煮干し」又は「撒き餌」に誘われて(?)、ワナ設置自動カメラにアライグマの姿が確認されたが、捕獲には繋がらなかったという。

これと前後して、本HPに、コメントが寄せられた。NPOの世話人だろうか、東京在住者からである。 ”2020 再び「アライグマ」に挑戦”を見て、是非会って話を聞きたいとの事であった。お話しするのは結構だが、コロナ禍中でもあり、先ず何を知りたいのか知らせてくれとメールすると、次の3課題が返事され、それには以下のように応えた。

外来種のアライグマは今後増える状況か。

北海道のアライグマは、今後、確実に増える状況にある、と考える。

新聞によると、アライグマの捕獲数は、年々増加傾向にあり、捕獲数は2006年度(1,724頭)で 2016年度には(12,354頭)と10年間に 7.16倍となり、前年度(10,954頭)より約1割増であるという。この傾向からは、今後、確実に生息数は増える状況であるといえる。

推定では、生息数は、捕獲数の数倍という。(朝日新聞H30.1.11)

【計算例】

例えば(最低に見積もって)、生息数が捕獲数の2倍と仮定すると、現在の生息数は(1.2万×2=2.4万)頭となり、その半数がメスで、かつその7割が成熟していると仮定すると、年1回平均4頭の子を産むので、子供の数は(1.2 万 × 0.7× 4 = 3.36万頭)約 3.4万頭となり、これに親を加えると(+2.4万頭)、合計で5.8万頭となる。

仮に、この年1.2万頭捕獲すると(-1.2万頭で)4.6万頭。すなわち、前年生息数の約2倍、捕獲数の4倍になり、間違いなく増えることになる。

(参考)

アライグマは1年で性成熟し、その66%が繁殖する。又2才以上では96%に及ぶ。繁殖は、原則年1産1~7頭で平均4.1頭という(1)。本道のように、農業県で、食料となる農作物はもとより生息場所の森林、畜舎、農機具格納庫、倉庫、給水施設、貯水池など農業施設の整った地域は、天敵不在のアライグマ生息の最適地であり、原産地アメリカよりも格段生息環境は良いといえる。それ故、生息数は、捕獲数の最低の2倍と仮定しても、1年後には2倍となり、3倍では捕獲数の6倍以上となり、今後、確実に増大すると予測される。これは極めて重大問題である。新コロナウイルス同様に道民こぞって取り組む課題である、いえよう。

2 アライグマの資源化について。

資源化の可能性は、①家畜化 ②ペット化 ③食料化  ④その他 である。

アライグマは、生物進化的には、今から3,000万年前にネコ目のイヌの先祖から別れ、アライグマ科となり、300万年前頃から更にパンダ属と分かれたと想定される。アライグマ科にも数種あり、パンダ属にもオオパンダ他数種、近縁にジャコウネコ科のハクビシンがいるという。

①の家畜化については、無理であろう。

アライグマは小型ほ乳類なので、犬(役畜)や山羊(毛)のような用役が考えられるが、その習性から(群れを成さず、リーダー追従性等がなく、気性が荒く)、この数万年の農業が始まるまでの間に他の家畜(イヌ、ネコ、ブタ、山羊など)のように家畜化されずに経過し、今後、家畜化は無理であろう(野生動物のママで狩猟獣の様な肉利用、”ジビエ”は可と考える。食料化については別途③)。

②ペット化については、無理である。

既に大問題となっているように、世界中でペット化が流行し、我が国でも昭和50年代より、何十万頭が輸入されペットとして売り出された。しかし、飼い主とのトラブルが絶えず《何年経っても完全に馴れず、気性が荒く、キレが激しく、その修復に時間(日数)を要し》、愛想を尽かしされ、多くが放棄され、それが野生化し、ペット化には失敗した、経緯がある。

③ 食料としての利用は、有望であろう。

これまで、アライグマの肉には、関心が向けられなかったが、生息数は多く、捕獲し易く多産で、しかも雑食性で飼育も簡単である。しかし、感染症の危険性は不明である。

シカ(養鹿)のようにワナで捕らえて飼育する、養育方式が可能であろう。

肉は、焼き肉ロースが最高という 。内臓も美味で、シカなど及びもつかないという。ただ、小型動物なので、部位肉が少ないのが難点である。知人は、「食べるなら、いつでも届けるよ」と言っている。

④ その他の用途(毛・毛皮)については、可能性大であるが・・・?

タヌキに較べ毛質は不明だが、知人によると、毛皮の保温性、撥水性は極めて高く、用途開発の可能性は高く、有望な資源である、という。だが、利用部位が少なく、ベスト1着に5~6頭、帽子1つに数頭を要するという。

私案だが、毛皮の衣服は動物愛護の時代にフィットとしないであろう。

いずれにしても、アライグマは敵対的外来種であり、生態系に甚大な影響を及ぼしながら、本道では約10数年を擁して野生化した。問題は、天敵(フッシャー・テン)の居ない我が国では、今やアライグマが野外の生態系の頂点に君臨しており、生態系を大きくゆがめている(見えない被害は計り知れない)。豊かな本道(我が国)の自然を守るには、人間が天敵となって、捕獲・排除する以外に解決策はない、と考える。

 3 アライグマからの感染症

人獣共通の感染症はいくつもあり、未だ不明のものも多い。

日本のアライグマは、クリプトスポリジウム症、ツツガムシ病、トキソプラズマ症、日本紅班病、レプトスピラ症(齧歯類が主な保菌動物)、狂犬病など人獣共通感染症を媒介することが知られている(阿倍豪)。 野外では、犬の伝染病、ジステンバーに感染したアライグマやタヌキ、キツネをよく見掛ける。又、野生のシカ、キツネ、アライグマなどの寄生虫、マダニが媒介するスピロヘータによるライム病などもある。

今、特に大問題となっている新型コロナウイルスは、中国でコウモリから人間に感染したと言われる。 古くからの感染症には、ウシ→はしか 、アヒル・ブタ→インフルセンザ、ブタ・イヌ→百日咳き、ニワトリ、アヒル→マラリヤ 、家畜→結核などがあり、最近では、コウモリからハクビシン経由のSARS、ラクダからのMERS 、サルからのエイズAIDSなど野生動物からの感染症が特に多く知られ、これらは未だ終結していない(2)。

寄生虫としては、アライグマ回虫がいる。 これはアライグマ独特の回虫で、人間に感染すると、血管を伝わって、脳に達し、死に至らしめる、極めて危険な寄生虫だという。この事例には、動物園のアライグマに感染例があるという。

これらから類推するに、我が国では、「ジビエ」としてのアライグマの活用は、可能性はあるとしても、危険と同居しており、需用の拡大は期待できない、と想定される。

 参考文献

(1) 北海道における移入アライグマの繁殖学的特性(北海道大学淺野他2001.9)

(2)  銃・病原菌・鉄 草思社(ジャレド・ダイヤモンド 2000.11)

コメント

  1. 山根 より:

    がんばっていますね