1970年代のサロベツ原野の草花(1)

サロベツ原野 (ワタスゲ・エゾカンゾウ大群落)

昭和49年9月20日、利尻・礼文国定公園はサロベツ原野の一部を追加して、北海道で5番目、日本で27番目の国立公園、利尻・礼文・サロベツ国立公園となりました。
当時、私は、国立公園昇格のためにサロベツ原野の植生調査を担当していました。今から45年以上も前になります。この写真ギャラリーは、その時撮影したものです。

サロベツ原野の概要
サロベツ原野は、東西5~8km南北27km(天塩川以北から兜沼付近まで)で、南北に長い長方形をなし、面積約2万haで、その7割が泥炭地(湿原)である。
サロベツ原野に流入する河川は、サロベツ川、エベコロベツ川、オンネベツ川などで、これらが合流してサロベツ川となり原野の西側を南下し、南西隅で天塩川に合流して日本海に注いでいる。

サロベツ原野の生成

サロベツ原野の生成は、天塩川河口の砂丘帯の発達と、湿原域に流入していた諸河川の氾濫により、低平な陸地が次第に沼沢地化し、立地条件によって植生が変化し、次第に移り変わって現在の姿になったといわれる。
泥炭の堆積速度と厚さから考え、この湿原の成立には6,000~7,000年かかったと推測される。なお、泥炭地は土壌学上の言葉で、湿原は生物学上の言葉であり、湿原は必ず泥炭地であるとは限らないという。熱帯には泥炭を含まない湿原もある。

サロベツの地名
アイヌ語で湿原をサル(Sar)といい、サル を流れる川だからサルペツ(Sarpet)湿原の川という。この湿原の中にペンケ沼(トー)、パンケ沼(トー)の二つの沼がある。
ペンケ(川上の)ト(沼)、パンケ(川下の)ト(沼)ということで、これが一対になった地名は全道に数多くある。

湿原の植生
サロベツ原野は、川岸と台地部を除く殆どが樹木のない湿原特有の景観を有し、ミズゴケ、ホロムイスゲを主体とする高層湿原が1,700ha、ヨシ、スゲ類の低層湿原が9,000ha、中間湿原が3,900haとなっている。
一般に沼沢地は、過湿で低温のため植物の遺体は分解し難く、地表には分解途中のまま堆積した遺体により泥炭層が形成される。ミズゴケ泥炭では、地表で年々枯死するミズゴケ(16種類に及ぶ)と共に、水を一杯含んで水位を上げていくため、ついには周囲よりも地下水位の高い部分ができる。ここでは、もう、地下水を利用できないから、雨水に頼らなければならなくなる。このように、雨水によって潤されている湿原を高層(地下水面より上にある)湿原という。これに対し、地下水によって潤されている湿原を低層湿原、その中間に当たるものを中間湿原という。

 高層湿原の代表植物は、イボミズゴケ、ムラサキミズゴケ、アカミズゴケなど多種のミズゴケ類の他、ホロムイスゲ、ツルコケモモなどである。
 中間湿原の代表植物は、ワタスゲ、イソツツジ、ヒメシャクナゲ、ヤマドリゼンマイ、エゾカンゾウ、モウセンゴケ、ショウジョウバカマ、トキソウなどである。
 低層湿原の代表植物は、ヨシやスゲ類の他、ナガボノシロワレモコウ、サワギキョウ、ミソハギ類、ギボウシ類である。

参考図書 最北の秘境 国立公園利尻礼文サロベツ
企画 利尻礼文サロベツ国立公園祝賀協賛会
制作 北海道撮影社  昭和49年9月

湿原の花たち