ニュージーランドの森林とラジアータパイン

    

         南島の南極ブナの原生林↑      北島の再生林とラジアータパインの人工林↑

西洋人が初めてニュージーランドにやって来た250年程前には、殆どが常緑の森林であったという。この原始の植生は現在も所々に残っている。例えば北島には、巨大なカウリマツの森林があり、小さな峡谷奥には丈が10mもの巨大な木生のシダ類が、また、南島の降水量がやや少ない地域には南極ブナの常緑樹林が見られる。その他にもイトスギモドキ、マキ科のトタラ、カヒカテア、それにタワなど特有なものがある。植物に詳しいものでも針葉樹か広葉樹か区別がつかないものも多い。英国人は1850~1920年の僅かな間に殆どの森林を伐採し、焼払い耕地や牧場に変えた。そのため洪水や崩壊など自然災害が多発し、1920年頃から天然林の保護や人工林造成が推進されるようになった。そこに登場してくるラジアータパインである。

ニュージーランドの森林とラジアータパイン(Radiata Pine)

1.ニュージーランドの森林
ニュージーランド(以下、NZ)は面積約27.5万平方キロ(日本の約3/4)人口約424万人(北海道の3/4)で、ほぼ地球の反対側の緯度に位置する。
NZは千年前まで無人島であった。国土は氷河や湖を除く全てが森林で覆われ、当時の森林率は約80%であった。そこにポリネシア系のマオリ族が移住して来て約800年が経過し、今から180年程前にイギリス人が移住してきた。

NZの自然林は、トタラ、カウリなどマキ科やナンヨウスギ科の広葉樹(分類学的には針葉樹)で上層は覆われ、中・下層には高さ10mにも及ぶ木生のシダ類が繁茂し、温帯ながら常緑の熱帯又は温帯雨林の様相を呈している。特にカウリは、北島固有の広葉樹で、成熟すると樹齢2,000~3,000年、直径6m、樹高50mにも達し、世界最大級のセコイアにも匹敵する巨木となる。材は通直で無節の幹は特に優れ、船のマストや家具材としてヨーロッパに輸出された。そして、1770年頃から伐採が急に進み、急激にカウリの森は消滅していった。  南極ブナ林下層の木生シダ→

NZの巨木カウリやオーストラリアの有袋類コアラ等の祖先は、シダ(針葉樹の先祖)や恐竜の栄えたジュラ紀(1.8億年前)に出現し、その後、ゴンドアナ大陸がプレートに乗って移動し、広葉樹が出現した白亜紀(1.2億~6500万年前)にはアフリカや南米とは遠く離れ、それまで接していた南極大陸からの生物が別の進化の道筋を辿ったゆえ、オセアニアには固有の生物種が多いという。

NZが英国の植民地となった1840年当時の森林率は50%であった。気候温暖で湿潤な北島では特に森林伐採が進み、人間の定住地と羊のための牧草地に変えられた。その結果、森林率は20%に減少し、母国英国のような貧弱な草原景観に変わった。このように20世紀の初めには植栽による森林造成はなく、豊かな森林を伐採し、木材を本国に輸送し、跡地を牧草に変えてきた。
現在、天然林が残っているのは、南島のサザンアルプスの南西部と北島の中央部の山岳地帯の交通の不便な地域に限られ、その面積は国土の23%である。その内、特に原始の趣の残る南島の南極ブナなどからなる常緑天然林は、国立公園や世界遺産に指定され、ほぼ完全に禁伐となり厳重に保護されている(この地を今回、2017年10月に訪問した)。       南極ブナの原生林 ↑

それ故、NZでは人が植栽した人工林を除いて、天然林では全ての樹木の伐採が禁止されている。
一方、裸地化に伴う崩壊や土砂の流出が続き、樹木の植栽の必要性が生じて来た。そこで、1920年頃から外国樹種の導入・実施・林学研究が始まり、歳月をかけてモノカルチャー的な「ラジアータ林業」を軌道に乗せることに成功した。  広大な牧草地での羊の放牧状況 →

2.育種樹種ラジアータパイン
ラジアータパイン(以下、RP)は北米産のモントレー松を移入したものである。移入時の1960年頃を境にそれ以前のものを「古いRP」、以後のものを「新RP」と呼ぶ。新RPは品種改良を重ねた育種樹種で、古いRPとは、材の通直性、節間の長さ、枝の細かさ(節の大きさ)、病気に対する抵抗性、材質の強度などで全く違うという。収穫する伐期も古いRPは30年以上であったが新RPでは平均20~25年で年成長量は20~30m3/haであるという。

    ラジアータパインの展示林 育種目標の看板

既に紹介した置戸照査法林では年平均10m3/haであるので2~3倍もの早い生長である。
年輪幅も新RPは8mmと置戸のトドマツやエゾマツの3mmと比べるとほぼ同じ 2~3倍の年輪幅の広さである。しかも、材面の美しさは別として、材の強度は殆ど変わらないという。それ故、新RPはこの100年間で林学研究がもたらした最大の成果であるという。
NZは、20世紀当初から、育種材料としての有望樹種を世界中から集めると共に、優れた研究者をも集め、国家プロジェクトとして苗木の生産から施肥、除草、さらには枝打ち、間伐、主伐の方法に加え、集運材、木材加工まで、まさに「揺りかごから墓場まで」経済合理性(特に低コスト化)を追求し、RPによるモノカルチャー林業のシステムを構築し、実践し、成功させたのである。展示林には我が国のスギやヒノキは元よりトドマツ・エゾマツやカラマツまでが植栽され、本国以上に太く大きく育っている。
農業国であるNZは、世界のいずれの市場から遠く不利な立地にあるが、この新RPを武器に世界市場に打って出るという「林業立国」を目指している。かっての羊毛は化学繊維に圧され、その位置を木材に譲りつつある。この動きが今後のNZの森林の保護や造成の行方を握っているといえよう。

 写真 育種苗 20cm程の挿穂を苗畑で半年ほど養成し山出し苗(右)となる。

 写真 山土場での丸太のハイ積み状況      乾燥済みの製材

現在(2006)、年間約2,000干万m3/haの木材伐採があり(計画では3000万m3/ha)、そのうち天然林からの伐採は僅か2%である。また、人工林面積は国土の5%を占め、これらは全て新RPの森林であるという。

 2015年のNZのRP輸出量は、丸太で約1600万m3、製材で150万m3という。                          (h29林業白書)

[参考文献]
・アオテアロアの森 ニュージーランドの天然林とマオリ 木平勇吉
森林科学 No.14 1995.6
・ ニュージーランドの森林 ラジアータパインのモノカルチャー林業 木平勇吉
もっと知ろう世界の森林を 日本林業調査会 2001.1.1