「共生の森づくり」について(1)
先のヒグマ考(5)にみるように、私案「ヒグマ基本計画」の中で「人とヒグマの共生の森づくり」を提案した。
人とヒグマの共生する森とは、「どんな」森であり、「どのように」作るのだろうか。
この点について、森林技術者の立場から述べてみる。
野生動物にとって、最も大事なのは、「食べ物」と安全な「住環境」であろう。
先ずは、食べ物からにてみる。
1 ヒグマの食べ物
ヒグマは雑食性で、木の実、草木の芽や根、液果、フキやイラクサなどの草本類の葉や茎などを主に食べる。また、サケ、マスなどの川魚、ザリガニやカワガニなどの甲殻類、アリ、ハチの幼虫など昆虫も食べる。
冬眠やお産に必要な栄養補給には、大量のドングリやクルミ、クリが、また、道南ではブナの実など「木の実」が、主要な食糧である、という。
草本では、キク科のアキタブキ、セリ科のオオハナウド、エゾニュウ、シラネニンジン、サトイモ科のザゼンソウやミズバショウ、イラクサ科のエゾイラクサ等が、好んで食されるという。
ヒグマは、本州産のツキノワグマに比べて肉食傾向がやや強く、シカ、ウサギなどの小動物のほか、放牧中の牛や馬を襲うことがある。特に近年は、エゾシカの急増により狩猟や交通事故死したシカの死骸を食する機会が増え、肉食化が進んでいるという。
2 樹木に関わる食べ物
冬眠から覚めた時、雪の原では草食性の食べ物は少なく、雪融けした部分にはフキやザゼンソウ、エゾニュウなどの芽があり、そこで芽や茎、地下の根(地下茎)を掘って食べる。木の芽が出始めると木の芽や花の蕾を食べる。しかし、サクラやブナの大木の登るにはヒグマは体重が大きすぎるので、この時期の食糧は、 草本が圧倒的に多い。
自生植物で実のなる樹木は、ブナやナラ、クリ等ブナ科やオニグルミなどクルミ科、バラ科のエゾヤマザクラ、ナナカマド、シュウリザクラ、その他ミズキ、キハダなど高木やタラノキやガマズミ、ハイマツなどの灌木、ヤマブドウやコクワ、マタタビナどの蔓茎類である。樹木ではないが、北海道の天然林には、丈が2mにも及ぶネマガリダケが林床に密生しており、5~6月の雪融け後の山地ではその「タケノコ」がヒグマの御馳走である。これは、人にとっても同様であり、これがクマと人との出会い場所となり、山菜採りの事故が絶えない。
3 山つくりと木の実について
これまでの森林造成は、天然の広葉樹林を伐採し、生産力の高い(成長の早い)、価値のある建築材を目指して、トドマツやエゾマツ、カラマツなどの針葉樹を造成してきた。
その結果、里山(5割)をはじめ奥山(2割)の森林が、針葉樹の人工林と変わり、冬になっても葉の落ちない黒い林が多くみられる。
アイヌの最後の狩人といわれた姉崎氏によると、「山の木が伐られ、主に針葉樹ばかりの森林になるにつれて、ヒグマの餌となるドングリや蔓類のコクワなど木の実が少なくなり、更に山つくりのために播いた薬品によりサワガニ、ザリガニなどもいなくなった。
また、植えた木に絡む蔓は、木の伸びを妨げるからと言ってどんどん切ってしまい、ブドウ蔓もなくなってしまい、さらに、針葉樹林の下は、日陰になるから元々の植物が全部死んでしまった。今では、クマの好む自然林は殆ど無く、山に餌となる木の実がないからクマは可哀想だ」という。要は、野生動物の暮らせる場所がないという。
4 「ヒグマの棲む森つくり」をどう進めるのか
かって存在した自然林、少なくとも昭和30年以前の北海道の天然林(自然林)にどの様にして近づけるか、が当面の課題といえよう。全道森林面積約550万haの11%約60万haを占める北海道有林を例に考えてみる。
森林60万haに対して人工林は約2割強の13万haである。これら人工林は主に海抜高500m以下の低山帯に分布している。トドマツやエゾマツの人工林を、ヒグマの好む自然林に近づけるのは長期的には可能だが10~20年という短期では難しい、しかし、海抜高が500m以下の低山帯でも、山の稜線部や沢筋には広葉樹天然林が帯状に残っている。これらは人工林保護帯として残置した樹林帯である。また傾斜が30度以上の急傾斜地にも広葉樹天然林が多く残っている。しかし、何度も人手が入り伐採を繰り返されたため、樹種構成が偏ったり大径木が少ないなどから、原生の趣を残す天然林と区別して「天然生林」呼んでいる。
先ずこの天然生林を、クマの好む、生息可能な森林に変換(誘導)して行くことが第一の取り組みであろう。
5 具体的な森林施業について
有効な森林施業としては、昭和62年、国が広葉樹について導入した新しい施業「育成天然林施業」がある。
これは、天然力を活用しつつ、種子の発芽を促す「地表のかき起し」や「刈り出し」、「不良木、不要木を除・間伐」し、優良広葉樹林に誘導する森林施業である。
特にその中で速効性のあるのが「広葉樹林改良」事業である。これは、道有林では、明治後期の山火事跡の再生林で古くから行われた幼齢林択伐施業で、S61年以降でも10年間で約15,000haも実施されている。
今回の施業目的は、良質な建築材生産でなく、クマの餌となる木の実を付ける樹木の生長、結実の促進である。
広葉樹林改良は、何らかの要因により再生した密生広葉樹林(稚・幼樹林)において、目標とする樹種について、形質不良木や不要な樹種を伐採し、密生する林分を疎開し、目的の樹木に陽光や空間を充分に与え、加えて根系の競合を除く施業である。
具体的な選木方法であるが、右図の通りである。
これは水平的であるが垂直的にも同様な施業を行う。
特に稚幼樹の場合は、幹に巻き付くフジやゴトウズル等の「蔓切り除伐」も必要な施業である。
下図は施業後の樹冠の平面図である。
これらを要約すると
、育成目的のナラ類やクルミなど樹木の成長、結実を促進するため、特に陽光、空間を充分に確保する除・間伐を行うことである。
これは、冬に堅雪を利用して、スキーで移動し、手鋸を使って伐り倒す極めて簡易な作業である。これを実施し、数年が経過すると、目的樹は見違えるようにクローネが広がり成長し、幹が太っていることが確認できる。
その他の施業としては、広葉樹の種子「発芽」や「稚幼樹の天然更新」促進のための各種「天然下種補整」があるが、これらは、夏(生育期)の施業であり、積雪のあるヒグマの冬眠時期には実施不可能であるので省略する。
また、ナラ類の苗木の植栽は、現在ではエゾシカの餌になるだけで成林は困難であり、かつ、ヒグマの生息地に侵入することになるので避けるべきである。
私の「人とヒグマの共生の森つくり」の”食べ物の森”については、以上です。
では、また!!









