- ブナの大木の先端近くまで登るツキノワグマ。
- ツキノワグマ。胸に白い三日月型の斑紋。
これまで、ヒグマについて諸知見を紹介してきた。しかし、新聞には、本州各地でのツキノワグマの公道への出没、畑や菜園・人家への侵入、更には市街地での住人との遭遇、人身事故の報道が毎日のように見られる。 日本列島全体で、動物間のバランスが失われ、更にはドングリやクリ、クルミ、ブナ、カキなど木の実の豊凶がどこかで連動し、同じように変動しているのだろうか・・・?
今回は、農業被害、人身事故などに重点を置いて、ヒグマとツキノワグマの違いや同一点について考えてみる。
1 ヒグマとツキノワグマとの違い
いずれも肉食目クマ科クマ属4種(ホッキョクグマ、ヒグマ、アメリカクロクマ、ツキノワグマ)の仲間である。
本州と北海道を区分する津軽海峡には 動物地理学上の「ブラキストン線」があり、その以北にはヒグマ、その 以南にはツキノワグマが生息する。 哺乳類は寒さに適応し、北ほど体は大きい。
ヒグマの雄は、成獣で体長2~3m、250~300kgであるのに、ツキノワグマは1.2~1.8m,100~150kg、平均70~90kgで一回り小さく、100kgを越えるのはかなり大きいという。
体毛は、ヒグマは茶褐色から焦げ茶色で首に黄色の班があるものもあり、個体差が大きい。一方、ツキノワグマは、全身黒色で、胸部に三日月型の白い斑点を持つという。
いずれも肉食目クマ科に属し、雑食性の哺乳類である。犬歯は鋭く、手足の爪も鋭利である。一般に、食性は、ヒグマに比べ植物性を摂る割合は多いが、肉食性の雑食である。
形態は、ヒグマのようにがっしりでなく、肩が隆起せず、背中は馬の背のように凹である。
ヒグマもツキノワグマも、日本海を隔てて中国大陸の中ロ国境地帯から極東ロシアのアムール川流域に生息しており、共に日本のものより大きい。
ヒグマには人食い熊と呼ばれるような凶暴なもの知られているが、ツキノワグマにも人食い熊はいるという。また、ロシアでも人食い熊は知られている。このように、クマ類は、一度人の味を覚えると執着し、その味を求めて人食い熊になると伝承され、そういうクマは可能な限り排除すべきと考えているという。しかし、この様なクマは、数年に1頭現れる程度で稀なことであり、クマ全体に及ぶものではなく、ロシア極東の先住民族達は、クマ類は神に寄り添う存在であり、貴重な衣食住の資源である、としている。
ツキノワグマの肉食の例としては、昭和50年代後半に、野ウサギやカモシカの体毛が腸から発見されている。過去の事例では、大正時代にも秋田、岩手の県境の山間部では牛の放牧場で熊が家畜を襲って補食した事例はあるという。
ツキノワグマの肉食化については、瞬発力ではクマに勝るカモシカをどのようにして補食したのか不明であったが、確認できたのは、春の雪崩に逃げ遅れたカモシカの遺体を、雪の中から掘り出して肉を漁る親子の姿を見たことによる。
ツキノワグマの肉食化が見られるようになったのは、ニホンジカの増え始めた1990年以降であるという。これは、北海道で近年のエゾシカの激増により、事故死したエゾシカや狩猟の獲物の解体残渣を放置し、それをヒグマが食し、ヒグマの肉食化が進んだというのと同様の経過が窺える。 いずれにしても、森林を住みかとし、共に森林生態系の頂点に位置するヒグマ、ツキノワグマは、気候変動、人間社会の変化等の諸影響を受け、同様に適応しているのであろう。
一方、クマは木登りが得意である。ツキノワグマはブナの大木に登り、新芽、花芽を食べる。また果実も食べる。その際ブナの芽や実、特にドングリ、カキ、クリなどの樹上で小枝を折って枝ごと実を採り、枝先の実を食べ、枝を積み重ねて「クマ棚」を作りその上で座って充分に果実を食するという。ブナ、クリ、カキの大木には一本に5~10個ものクマ棚があり、そこで安心して食するという。また、登る木は、周囲など全体を見て特に結実量の多い木を選んで登るという。しかし、ヒグマは、木に登るが、果実より葉や芽を食べることが多く、また、大きく体重があるため、大木の高い樹上にクマ棚は見られず、低いニレの木に粗雑な「クマ棚」が見られる。ただ、ブドウ、コクワの実を食べるため、蔓をたぐり寄せて、低い広葉樹にクマ棚のある例は聞く。
2 獣害について
農業では、果樹園の作物、養蜂の巣箱等に被害がある。特に多い農作物は、リンゴ、クリ、カキ、飼料用のトウモロコシである。岩手県では、リンゴの熟する時期になると、クマは、生活リズムを昼行性から夜行性に変え、夜間に果樹園に侵入するという。
ツキノワグマによる人身事故は、山中で単発的に発生したことは知られているが、連続性のある事故は過去にも起きているという。人身事故は、登山者や山菜採りが、山に入った際にクマと遭遇したり、山村集落の住人が森や畑で作業中に発生している。
人身事故の件数は、2004年は合計109人(内2人死亡)、2006 年は合計145人(内3人死亡)、 2010 年は合計147人(内2人死亡)の報告がある。
なお、2016年、秋田県鹿角市で5~6月に7人(内4人死亡、食害有り)の大被害が起きた。これは、この100年で最大の死亡者数であるという。
ヒグマに比べ、体の小さなツキノワグマによる人身事故は近年頻発している。
3 生息域、生息数について
日本では千葉県を除く本州、四国に分布する。かつては、九州にも分布していたが、現在は絶滅したとされている。
また、国内におけるツキノワグマの生息数は、約10,000頭と推定されている。しかし、堅果類の凶作の2004年に2,300頭、2006年に4,600頭が捕殺されており、その後も頻繁に目撃されていることから、もっと生息数は多いのではないかなど、正確な生息数は不明である。2010年、毎日新聞の聞き取り調査での推定では、16,000~26,000頭と幅が広い。
4 繫殖特性について
繁殖可能年齢は、ヒグマ、オス2~4歳、メス3~4歳。ツキノワグマ、オス2~3歳、メス4歳である。
子育て期間は、ヒグマ1~2.5年で、2冬、母ぐまと冬眠することがある。一方、ツキノワグマは1年半で、生まれた次の春には、親離れをするという。
北海道の厳しい自然環境の中では、子グマが生き延びるため母グマの保護が重要であり、餌の取り方、危険の回避などを教えるため、期間が伸びたのであろう。
5 林業被害について
林業に関わる者として、造林木の幹の皮はぎ「クマハギ」は重要である。
- 林業被害、ツキノワグマの「クマハギ」。
- 杉のクマハギ(皮剥)。
ツキノワグマによるスギ人工林に見られる幹の皮剥ぎ「クマハギ」は、貴重な木部の雑菌による腐食、更には、形成層を食害され、導管を失い水分の上昇がストップして枯死にいたる被害は甚大である。杉、檜などで皮剥をなぜ行うかの原因は明らかでないが、食物が少ない時
参考図書
『クマはなぜ人里に出てきたのか』永幡嘉之(旬報社 2024.01.15)
『日本の動物 哺乳類』増井光子(小学館 1983.8.20)
写真は全て永幡嘉之氏撮影。図版は全て増井光子氏より引用。










