ここでは、農山村や市街地にヒグマが出没するのはいかなる要因によるものか?
これについて、生物界、人間界の変化からみてみます。
先ずは、これまでの私のクマとの関わりからはじめます。
3 ヒグマについてこれまで(過去)
1)クマとの出会い
郷里山梨でS30年頃、私は小学生であった。地域の青年団がワナでクマを捕らえ、それを我が家に持ち込み、林業家である父に買ってくれと頼んでいた。これが野生のクマを見た最初であった。中学時代の修学旅行は東京上野の動物園であった。そこでは、ゾウ、ライオン、トラ、クマ(ツキノワグマ)などを見た。
大学時代には、京都の芦生演習林で 杉の「クマハギ」の被害を見たが痕跡だけであった。また、登山で本州の高山に多く登ったが、クマを見たことはなかった。
卒業後は北海道に就職し、北海道有林の施業案編成に関わった。特に、S39~45年の7年間は、1年の大半を天然林調査で過ごし山野を跋渉した。その時、クマの痕跡は沢山見たが、巣穴(冬眠穴)は1箇所だけでその中を覗いたことはある。しかし、ヒグマの姿をみたのは、車中から一度だけで、斜面を駆け上り逃げ去る1頭であった。
その後、R4年まで、森林調査、ボランティア「森の案内人」として機会ある毎に森林内を歩き回ったが、ヒグマの姿を見たことは一度もなかった。要は、森林内を歩いた60年間に、「森林内で野生のヒグマを見た、出会った経験はない」のである。
2)ヒグマの姿を近くで見る
ヒグマの真の姿を確認しようと、年明けから数回、札幌市の円山動物園に通った。動物園は、市の中心部から西に約4km、天然記念物「円山原始林」に隣接した円山公園の一角にある。地下鉄を降り、徒歩で円山公園を通り抜ける。古い杉林の小径の先に動物園があり、その小径の入口に、「ヒグマ出没注意」の立て看板が設置されている。
- 円山動物園入口の手前スギ林内の小径の状況。クマ出没の看板が立っている。(2023.4.13出没)
- 動物園の檻の中でのヒグマ(2025.6)
ヒグマを見に行くのに、ヒグマ出没地を抜けて行くとは・・・。
動物園では、ガラス越しに50cmも離れずにヒグマの顔を見る。30cmを超すヒグマの大きな頭を見ただけで、このヒグマの巨大さと力の強さが解る。
体重230kg、年齢14歳 オス だという。
このヒグマの前では、何故か体からスーと力が抜け、立っているだけが精一杯になる。 檻(厚いガラス)に隔てられてもこのパワーである。自然の中で出会ったら、一瞬に意識が吹き飛び、卒倒するに違いない。
ヒグマ問題の大半は、ヒグマに対するこの「恐怖心」と、その裏腹のヒグマに対して持つ「偉大さ」「畏敬の念」にあると思う。
3)ヒグマとの「人類史的」な関わり
我国の先住民で狩猟民族のアイヌの人々は、ヒグマにどのように対応してきたのだろう。
アイヌの人達はいつ頃からヒグマと接してきたのだろう。(「Newton Special 日本人の誕生前夜」によれば、アフリカで誕生した人類の祖先が世界中に拡散した)という。
人類は全てアフリカで誕生し、今から約6万年前にアフリカを出たという。日本列島に人が住み着いたのは、今から約4万年前からだという。アジア経由で日本列島に北、中、南の3方向から入ってきた。その1つが地続きの北海道ルートである。今よりも海水面が70~80mも低く、これが地理的に最も移動し易かったという。これは日本の旧石器時代で、人々は石器を木の先につけた槍で、獣と戦いながら大陸から北海道に渡ってきた。トラやヒグマのいるユーラシア北部を2万年かけて横切り東に向う。マンモスを追っていたのであろう。しかし、この間、トラやヒグマ、ヒトは滅びず、マンモスだけが滅びている。
北海道に渡ってから4万年間、ヒグマは、貴重な狩りの獲物である。豊富な肉や脂肪、有用な毛皮、薬用としての胆のう、これらは大きな自然の贈り物である。
しかし、この獲物は、生死をかけて向かわねばならない強力な相手でもある。ヒグマを狩るには火、犬、弓矢、ワナ、毒、集団の力など全知全能を掛けて立ち向かう。さらには、運、魔力、神への祈り、神の力をも借りたに違いない。それが、ユーカラとして語られ、イヨマンテの祭(儀礼)として今日に伝わっているのであろう。多くの北方狩猟民族が、ヒグマには「感謝と畏敬の気持ち」を持つといわれる。人類拡散6万年もの長い付き合いの「記念誌」であろう。
4 ヒグマについてのいま(現在)
今日の社会問題「頻繁に出没するヒグマ」については、人の集まる場所にヒグマが出没するのは、大変迷惑であり、かつ猛獣であるヒグマの出没は、生命の危険を伴う大事件である。それ故、年数百回もの頻繁なヒグマ出没の現状を、1)農山村地域における「家畜と農作物被害」 2)都市(市街地)地域における「人身被害」の2つに分けて、それぞれの地域における被害要因を「人の側」と「ヒグマの側」とに分けて考えてみる。
1)ヒグマによる農山村地域での家畜と農作物被害
北海道の農村部では、農作物の被害が増大している。昨年(2023)の農業被害は、約3.3億円と過去最多を記録した。特に、飼料用トウモロコシ(デントコーン)の被害が深刻で農作物全体の被害が拡大している。その主な要因は
① ヒグマの生息域の拡大 ヒグマの個体数が増加し、従来の生息域を越えて移動、生息する。
②農作物の種類や栽培方法の変化 デントコーンやリンゴ、メロンなどヒグマの好む作物の拡大により、ヒグマの農地侵入が増大する。また、大規模、単一栽培化により、広範囲にわたり、同じ作物が栽培され、ヒグマの農地侵入を増幅する。さらに、収穫後の作物残(前記他ビート、ジャガイモ、ニンジン等根菜類)の放置がヒグマを誘引する。
③気候変動の影響 温暖化により冬眠期間が短縮され、活動期間が長くなり、人との遭遇が増える。
④生態系の変化 エゾシカの増加やサケ・マスの減少により、ヒグマが代替食物を求めて農地に移動する。
⑤餌資源の変動 ドングリやクルミ、ブナなど堅果類の豊凶が影響を与え、不作年には人里に降る。
⑦人間活動の変化 ハンターの高齢化、減少により狩猟回数の減少。これに伴うヒグマの警戒心の減少。
以上を「人間社会側の要因」と「ヒグマ社会側の要因」に分けて下表に纏める。
2)市街地区域におけるアーバン・ベァ化とその被害(人身被害の増加)
生息せず一時的に出没だけのこのヒグマが増えた要因としては、次が上げられる。
①ヒグマの生息域の拡大(都市部へ移動・侵入)
②里山地域での離農の増加 都市と農村との緩衝地帯の里山地域で離農が増加し、放置果樹がヒグマを都市へ誘引する。
③ 狩猟の減少(人を警戒しなくなる)
④若い個体の適応 人間側の諸条件の変化で、人間の存在に馴れた若いヒグマが増えて都市部へ進出する。
⑤観光・レジャーの増加 前④によりヒグマが人間に馴れる。特に、キャンプ場や登山・釣り・観光等での食物の 放置が人に馴れさせ、人に関心を持たせ、人間生活圏へヒグマを誘引する。
⑥生態系の変化 動物の減少(サケ・マスの減少、オオカミの滅亡)や競争関係の変化(エゾシカと草類 餌資源の競合)により、ヒグマの行動パターンが変わり、人間生活圏に侵入する。
今回はここまでとします。
ではまた!!









