ロシアの侵攻で始まったウクライナ戦争も3月で3年目を迎える。世界中が停戦を願い、平和を求めている。折しも、アメリカ第47代トランプ大統領が返り咲き、この和平に、彼独特のディール(取引)で臨み、その行方に世界の衆目が集まっている。
ウクライナの30日間の停戦合意については、トランプとプーチンの電話協議では、全面停戦案をロシアが拒否し、エネルギー施設に限定した攻撃停止が受け入れられるに留まり、停戦には相当高いハードルがあることが判明したと3/20の朝日は報じている。
そもそもこの戦争はどうして始まり、3年目の今、何が生じているのだろう。
我が国の国民は、西側の一方的な情報に浸たり、双方の主義・主張の違いには殆ど触れる事が無く、全体が闇の中にある。
そこで「何か外部情報を」と捜していると、エマニュエル・トッド氏の「文藝春秋」への寄稿や著書「西洋の敗北」他が見つかった。早速、最新著書「西洋の敗北」を購入し読み始める。内容は、目新しく面白く、グングン引き込まれ、数日で読了した。
トッド氏は、「家族構造と政治体制には根深い親和性がある」と、統計的分析より発見したフランスの歴史人口学者である(トッドの家族類型)。冷戦期の頃、自宅のソファーに寝転がっていたところ、ソ連、中国、ベトナムなど「共産圏の地図」と従弟同士の結婚を認めない「外婚制共同体家族の分布図」が一致することに突然気付いたという。マルクスの説く共産主義革命は、工業化社会の労働者階級によって実現されると言うが、現実は、工業化や労働者階級の存在と関係なく、親子間は権威主義的(親の言うことを聞く)で兄弟間は平等な「外婚制共同体家族」と大きな親和性を持つという。この論理を展開し、世界中の家族構成を永年研究し、多くの著書を世に出した。
最新刊「西洋の敗北」では、世界がウクライナをどのように捉えているのか? 即ち、米国、ロシア、これを取り巻くEUなど西側世界、それに、南、東側の世界の見方について、色々述べている。それを是非お知らせしたいと思い筆を執った。
- 2014年 ウクライナの大統領選挙(決戦投票)でのポロシェンコの州別得票率(右)と棄権率(左)
- ロシアのウクライナ侵攻に対して、非難、制裁、支援等の国の分布図 左図とも「西洋の敗北」より
先ず、トッド氏は、この戦争により明らかになった「10の驚き」を以下に纏めている。
① ヨーロッパで戦争が起きていること(西洋では戦争は過去のものであった)
② 敵対する2国はアメリカとロシアであること
③ ウクライナの粘り強い軍事的抵抗力(長く耐えていること)
④ ロシアの経済面での抵抗力(侮ってはならない強さ)
⑤ ヨーロッパの主体的意志の崩壊(ヨーロッパの先進的位置の衰退)
⑥ イギリスの根強い反ロシア主義(対ロシア抗戦主義 )
⑦ スカンディナビア諸国の同様な抗戦主義
⑧ 軍事大国アメリカに対する驚き(公然となった軍事産業の欠陥)
⑨ 西洋諸国の思想的孤独と無知(自らの価値観への他国の支援の無さ、その幻滅)
⑩ 西洋の敗北(ロシアの攻撃に晒されているので無く、自己崩壊の道を進んでいる)
等である。この戦争で明らかになったのは、ロシアの古典的、保守的抵抗に対する「西洋の敗北」「アメリカの末期的な危機」であるという。以下、これについて具体的に見ていく。
Ⅰ 著書 「西洋の敗北」 について
1 著者エマニュエル・トッドはフランスの歴史人口学者で、家族構造や人口動態を通じて社会や国際情勢を分析することで知られている。
2 トッドは、ウクライナ戦争を通じて西洋の軍事的・産業的制約が露呈したと述べている。
3 一方、アメリカを中心とする西洋諸国の産業基盤が弱体化していると指摘。特に、ウクライナ戦争での兵器供給の困難さが象徴的だと述べている。
4 さらに、トッドは、西洋社会が伝統的な宗教的価値観を失い、精神的な空洞化が進んでいると分析している。
5 また、ロシアや中国などの非西洋諸国が力を増し、西洋一極支配が揺らいでいると指摘している。
Ⅱ 国家としての「ウクライナ」について
1 ウクライナは東ヨーロッパに位置し、首都はキーウ。面積は約60万平方キロメートルで、日本の約1.6倍の広さを持ちます。人口は約3700万人(2023年時点)で、ウクライナ語が公用語。
- 家族制度での「父系制」の世界地図。家族制度は、右図の国別支援程度の支援度合と高い相関を示している。
- ロシアのウクライナ侵攻に対して、非難、制裁、無為、支援した国の分布図(黒い程支援度大)
2 ウクライナは古代から交易の要所として栄え、キエフ大公国やモンゴル帝国、ポーランド・リトアニア共和国などの支配を受けた。国家としては、1991年のソ連崩壊に伴い初めて独立国となった。
3 農業が盛んで、小麦やヒマワリなどが主要な輸出品。また、鉄鋼や重化学工業も経済を支える重要な産業です。
4 キーウには聖ソフィア大聖堂などの歴史的建築物があり、観光地としても魅力的です。ウクライナ料理ではボルシチやワレニキが有名です。
5 NATO加盟を目指す動きがロシアとの対立を深める一因となっています。
Ⅲ ロシアのウクライナ侵攻の主な理由は
1 NATOの拡大への懸念
ロシアは、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大を安全上の脅威と見なしています。特にウクライナのNATOに加盟に対し、ロシアは自国を守るために行動を起こしたとされます。
2 歴史的・文化的な結びつき
ロシアはウクライナを歴史的に自国の一部と見なす傾向があります。特に、キエフ大公国をロシア国家の起源とする見解や、ロシア語を話す住民が多い東部地域への関心が背景にあります。これが侵攻の正当化に利用されています。
3 地政学的要因
ウクライナはヨーロッパとロシアを結ぶ重要な地政学的拠点です。特に、黒海へのアクセスやエネルギー輸送ルートの確保がロシアにとって戦略的に重要です。
4 国内的要因
ロシア国内では、経済的困難や政治的な不満が高まっていました。それゆえ、プーチン政権は侵攻を通じて国民の支持を集め、政権基盤を強化しようとしました。外部の敵を作ることで、国内の問題から目をそらす狙いです。
5 ウクライナの西側志向
ウクライナは2014年のマイダン革命以降、西側諸国との関係を強化してきました。これにより、ロシアはウクライナが自国の影響圏から離れることを懸念し、軍事行動を起こしたとされます。
- トッド氏の既刊の図書の事例
- トッド氏の多様な著作事例
Ⅳ ウクライナを巡る周辺各国の立場
1 アメリカの立場
アメリカは、ウクライナのNATO加盟を自由主義体制の拡大と安全保障の強化と捉えています。地政学的には、東欧一帯におけるロシアの影響力を牽制し、西側同盟の結束を固めるため、ウクライナを戦略的パートナーと見ています。一方、軍事面では先進兵器の供与や情報共有を通じ、ウクライナの防衛能力向上を図るとともに、将来的な同盟内部での連携を強化し、これにより、ロシアの挑戦に対する抑止力を形成し、国際的なパワーバランスの維持に努めています。
2 イギリスの立場
イギリスは、ウクライナのNATO加盟を西側の価値観と安全保障戦略の一環として支持しています。即ち、ロシア勢力に対する牽制と欧州の安定確保のため、ウクライナが重要と位置付け、欧州安全を保障する姿勢を示しています。
3 EUの立場
EUは、ウクライナのNATO加盟において、加盟国間の安全保障観や歴史的背景の違いが明らかになる中、全体として地域の安定維持とロシア抑止を重視しています。それ故、EUとしては経済制裁や政治的圧力、エネルギー安全保障といった多角的アプローチを展開すると同時に、NATOと連携し防衛能力の強化や情報共有、合同演習の促進などにより、地域全体の防衛体制の近代化を試みています。
4 ロシアの立場
ロシアにとって、ウクライナのNATO加盟は自国の戦略的緩衝地帯が脅かされる重大な脅威であります。地政学的には、西側勢力の前進は、外部勢力の侵入に対する反発が根底にあります。軍事面では、NATO加盟国の先進兵器や情報ネットワークが自国国境近くに展開されることへの不安から、核抑止力を含む防衛体制の強化や戦略的再編を進めています。こうした対応は、ウクライナ問題を西側の政治的・軍事的挑発と捉え、自国の長期的な安全保障戦略に位置づけています。
Ⅴ この戦争を通じて明らかになったこと
1 この戦争は、アメリカとロシアの戦争であり、すでに第3次世界大戦が始まっているとみなし得ること
2 しかし、アメリカの軍事力、経済力が極端に衰退し、この戦争をアメリカだけで継続できなくなっていること
3 ソ連解体後のロシアの復興が着実に進み、近年、持続的経済力が高まっていること
4 トランプ大統領の出現は、今後30年間の米国の革新方向を示す重要な出来事であること
5 この戦争はアメリカがNATOを通じて始めた戦争であり、米国が第三者の顔をしている間は、簡単に終わらず、恒久平和は遠いこと教えています。
Ⅵ 世界を「戦場」に変えるアメリカ
アフガニスタン、イラク、シリア、ウクライナとアメリカは常に戦争や軍事介入を繰り返してきました。ソ連が崩壊してからアメリカは、世界中で戦争状態を維持させてきました。自ら関わった地域を全て戦場に変えてしまったのです。
中東に戦争をもたらし、今回はロシアを戦争に追い込み、ヨーロッパにまで戦争をもたらしました。東アジアにも戦争勃発の可能性はあります。
戦争はもはやアメリカの「文化」や「ビジネス」の1部になっていると言えます。こうしたアメリカの行動の危うさや不確かさは、同盟国日本にとって最大のリスクで、不要な戦争に巻き込まれる虞があります。
以上です。さて、皆様はどうお考えになりますか。
では、また!!