令和6年11月29日 「かでる2・7」での「道民の森ボランティア協会」の研修会で、標記テーマで約1時間、P・Pを用いてお話ししました。 これは春の総会で、年末の研修会では講師を頼むと打診があり、私としては、これまで15年間続けたこのボランティア活動卒業の潮時と考え、お引き受けしました。
内容については色々と考えたが、道庁退職前後から約30年間の間に学会で発表したり「北方林業」や「国民と森林」などに投稿したことを基に、道有林の山作りを主体において、その経験を、道職員OBや若い世代に伝え、残す事は重要と考え、以下の様に組み立てました。
- 研修会の風景
- 研修会の風景
その柱は、施業案時代に様々な道有林を見聞した際に、拡大造林に帰因する人工林の病虫獣害、気象害など多様な被害を目の当たりにし、安全な山作りには天然林施業が不可欠であると強く感じたこと、としました。
一方、道内には、S30年京大の恩師岡崎先生の指導で導入した置戸照査法試験林があり、その後の林況調査や記念式典に関わったこと。道職員最後の職場が、この試験地のある北見センター署長であり、その際、この試験林の40年余の成果の解明に1年間取り組み、一定の成果を得たことなどがあります。
さらに道庁退職後、同試験林のデータの提供を受け、その後の林況の変化を調査・分析し、試験林の今後について提案した事などを考え、次の3点に絞りました。
1,道有林の山作りから学んだこと
2,照査法試験林のこと
3,試験林の今後について
以下、これを順を追って簡単に紹介します。
1 道有林の山作りから学んだこと
(1)カラマツ先がれ病
この病原菌はカラマツの新しいシュートに感染し,伸長成長を阻害するため,樹形は針葉樹特有の3角形を成さず、先端が丸く竹箒のような形である。カラマツ先枯れ病は,1940年頃から発生が見られ,海岸沿線に被害が多く,造林地が増えると急速に蔓延し始めた。1657(S32)年には歌志内団地で内陸初めての発生が確認され、目的の坑木生産の樹高成長が望めないため,坑木生産に見切りを付け,蔓切り除伐等手入れを止めて放置したため,雪害を受け無惨な様相を呈していた。
- 病菌によりカラマツの新生シュートは枯れる。毎年かかると樹高成長は止まり樹形は丸くなる。
- 先枯れ病に毎年かかり先端が丸くなったカラマツ。杭木生産には不適。
- 道有林の536-42のマイマイガの防除とカラマツ先枯れ病の発生状況。マイマイガはBHC散布で防除できたが、先枯れ病の被害面積8700haの殆どが、伐倒焼却または改植され、原因究明がなされないまま、闇に葬るように放棄されてしまった。
当時(S42)の資料によると,マイマイガはBHC散布で防除できたが、カラマツ先枯れ病は道有林全体で7,400ha(半分は函館林務署管内)に及び,S42年に約2,700haが削除,改植された。しかし、原因究明は不十分で短期間で改植され、その改植樹種が後に新たな問題を生じた。
(2)ノネズミの被害
造林地被害の主なものは、カラマツ人工林のネズミ(エゾヤチネズミ)の食害である。冬期間,雪の下でネズミがカラマツ植栽木の根元の樹皮を囓って餌とするため,若木だけでなく壮齢木でも,根元をグルリと環状に食われれば枯損に至る。当時は既に殺鼠剤をヘリコプターで散布する方法が確立していたので,野鼠防除のためネズミの生息数を予測する「予察調査」(全道1200,内道有林200地点)が行われていた。この生息数を基礎に防除計画を立てた。道有林ではこれを遵守し,加えて,独自の樹種別散布基準を設け,生息数の多い場合には手播きでも防除していた。道有林の野鼠防除システムは極めて優良で野鼠被害は全道平均0.43%に比べて1/6と極めて低く、 S49~58の10年間平均で年4.3万haの7割に薬剤を散布し被害面積は僅か30ha(0.07%)であった。
- 最上図が加害獣エゾヤチネズミ。
- 独自の散布基準を設け、道有林の優れた生息数に応じた野鼠防除体制。所管別ノネズミ防除面積の推移。
- 所管別のノネズミ防除比率と被害の発生状況。道全体では対象林分の52%を防除し、0.43%が被害を受けている。一方、道有林は、対象面積の72%を防除し、0.07%の被害を受けており、全道平均の1/6と極めて良好な防除体制である。
(3)天然下種補整「かき起こし」
道有林における「かき起こし」の起原は,土場跡地の稚樹の発生からヒントを得て,ブルドーザで地表をかき起こすことで天然更新を期待できると考え,S42年に雄武経営区奥幌内地区に試験地を設定したことに始まる。当初は,ブルに排土板を装着して,斜面では筋状又は帯状に等高線に沿って階段押し,平地では平押しを行ってきたが,48年頃からレーキによる林地面積の50%を処理する「筋押し」や孔状地の「全押し」が主体となり,この方式が定着した。排土盤による地表の剥ぎ取りでは,表土の喪失,土壌や種子の流亡等損出が多く,レーキによるササだけの排除に変えた。そのため,地表が安定し施工後7年でカンバ類は高さ3.5mに成長した。
- ブルドーザにレーキを装着。
- レーキで掻き起した状況。
- レーキによる搔き起し後7年で樹高3.5mに成長。
- 浦河、北見、厚岸署管内を除いて掻き起しは実施されている。S56現在、約7千haで実施され、その6割で目標の90%の更新を確保している。かきおこしは極めて安全で確実な更新方法である。広葉樹については、母樹さえ確保できれば更新は容易。陰樹については、技術的には未確定。
掻き起しは、極めて安全で確実な天然更新を促進する施業方法である。
(4)トドマツ枝枯れ病
トドマツ枝枯病は,S40年頃から道北の多雪地帯のトドマツ若齢造林地に発生した病害である。その病状は,積雪の中で緑色の葉が落葉し,その枝が枯れ,羅病木の幹には胴枯れ症状が生じ,そこから出た枝が枯死し胞子を放出するなど,恐ろしい病害である。被害発生地は,多雪地帯の平坦地に集中し,最大積雪深1.5m以上,特に2m以上になると常習地帯となる。S42年当時の被害面積は、約1万haで被害状況は,激害林分21%,中害林分32%である。また被害分布は,美深(署管内,以下同じ)が全体の42%,雄武24%,名寄13%,倶知安9%であった。積雪と被害形態の関係では,樹高が最大積雪深3mを越えると枝枯れ病の危険高を脱することが解った。
- 羅病トドマツは、雪の中で緑の葉を落とす。
- 枝枯れ病の被害状況。健全木、中害木、微害木に区分し、被害林分をも区分した。
- トドマツ人工林の3齢級を主体に約1万haが羅病した。いずれも寒冷で豪雪地帯で多発している。
- 被害は、最大積雪深1.5m以上に発生。2-3mは常習地帯となる。本道西半分の緩傾斜で多雪地帯に多発している。
- 根元にしか青い葉はついていない。夏になっても葉は回復しない。
- 羅病幹は枯れ、胞子が飛ぶ。
一方,トドマツ枝枯病の被害状況と上木の関係については,美深管内ニウプ団地の天然林施業地や北大の中川演習林にみるように,樹下植栽や孔状植栽地では天然(前生樹)針葉樹の上木効果が有効に機能し,立派に成林している事例が多くみられた。これら資料を基に,S58年に北海道森林保護推進協議会,枝枯病対策部会から指針が出された。ここに道有林の知見が多く取り入れられ、道有林としては,この指針を守り,今後一層,道立林業試験場と共同して調査・研究を進め,より効果的な対策を検討することとした。
2 置戸照査法試験林のこと
置戸町の道有林には,昭和30年岡崎先生の指導により設定された置戸照査法試験林(以下,置戸試験林という。)約80haがある。これは拡大造林を始めるに当たり,残り半分の天然林を如何に管理していくかの技術的指標を得るため設置したものである。
照査法試験の目的は,あらゆる森林の部分が恒続的に最高の生産力を発揮できるような施業法を確立することにあり,その目標は,①できるだけ多量の木材を ②できるだけ少量の資源により,③できるだけ価値のある木材を生産することにある。
- 置戸市街地から見た試験林の風景。
- 試験林内の林相。
- 試験林内の林相(枯損発生)。
置戸試験林は,8年毎に伐採が繰り返され,(H10年現在)設定後約40年が経過し,5回目の伐採(第Ⅳ経理期)が完了したので,これらを纏め,天然林施業が求める最適蓄積,最適伐採量,最大生産力などについて分析し,一定の成果を得た。以下にその成果を示す。
(1)直径階別本数分配線が直線になる
置戸試験林では,横軸に5cm括約による直径階数,縦軸にha当たり立木本数(対数値)をとると,右図のように直線となり,その相関係数は極めて1に近い値である。
(2)机上で「伐採量算定」が可能となる
本数回帰式が直線になると仮定すると,直径階別本数の数式化が可能となり,一本の直線がある林分の本数蓄積を表すとなると,2本の直線に挟まれた区間は,その差(伐採量)を表すことになる。
- 伐採木、伐採量の算出方法。
- ha当たりの直径階別伐採本数の表示。左のグラフと連動している。
それ故,上図右のように直径階ごとの伐採本数,材積が机上で予測できるようになる。
(3)最大伐採量を得る適正蓄積は如何に
照査法試験の目的①は,できるだけ多量の木材を生産することにある。右 図は,横軸にhaあたり平均蓄積を,縦軸にhaあたり伐採量をプロットした。この回帰曲線は上に凸となり,ha当たり305m3で最大伐採量75m3となる。
3 照査法試験林の今後について
(1)枯損の大量発生
下図に置戸照査法試験林の林況の推移を示す。左図、左上表は第Ⅶ経理期が終了した2019年現在の置戸試験林の森林状況(m3/ha)である。右下図に,設定時の森林状況を100とした経理期毎の指数の推移を示す。伐採量は第Ⅴ経理期以降増大傾向にあるが,成長量より3割も少なく,しかも枯損量が4倍以上に急増したため,成長量は第Ⅳ経理期をピークに減少傾向にある。その結果,蓄積は,haあたり400㎥に届く程に増大したが,近年は枯損量が増加し,期末蓄積に見るように蓄積は停止状態にある。
- Ⅰ-Ⅶ経理期の森林状況(m3/ha)と、その指数表示の推移。枯損量がダントツに増加。
- Ⅴ-Ⅶ経理期の蓄積と枯損量の径級別推移。Ⅶ経理期は、針葉樹小径木の枯損量が全体の4割、本数で1200本稚樹を入れると数千本に及ぶ。
右上図はⅤ-Ⅶ経理期の径級別,NL別蓄積(右)と枯損量(左)である。Ⅶ経理期は小・中径木の枯損が9割を占め、その殆どが針葉樹である。枯死した小径木の本数は、約1,200本でこれに稚樹(直径12.5cm以下)を加えると約5千本の後継樹が1経理期間中に試験林全体で枯死している。さらに、この殆どが植栽木である。これは極めて重大な現象である。
(2)枯損の発生は何に帰因するのか
近年,急激な増大を続ける枯損量は,樹種別には針葉樹に多く発生している。そこで,枯損の多い第Ⅶ経理期について,目的変数に枯損量(m3/ha)をとり,説明変数に,期首蓄積,伐採量(m3/ha),蓄積の針葉樹比率(%)の3因子をとり,その相関関係を調べたところ,この組み合わせが最も高い相関関係(0.77)を示した。影響の最大は伐採量(-0.69)で,次が針葉樹比率%(0.28)であり,期首蓄積(0.19)が最小であった。 枯損発生の最大の要因は、伐採不足である。
(3)試験林の今後のあり方
右図は、最大伐採量を生み出す際の平均蓄積(300m3/ha)で最大を示したもので、グラフ上の赤線が伐採率(20%上)の高いⅠ-Ⅳ経理期、青色が(20%下)のⅤ-Ⅶ経理期である。後者が蓄積で80m3/ha増え、伐採量で15m3/ha減少している。ここにも伐採量の減が影響している。
急激な枯損発生の原因は伐採量の減少にある。それには,これまでの成果である前掲「伐採量算定図」を活用し,伐採量を生長量以上にしなければならない。現在、林分生長率は約25%ゆえ,伐採率は30%程度となる。しかし蓄積の1/3を伐るとなると伐後の風・雪害が懸念される。それ故,これまでの回帰年8年を6年に短縮して,伐採率を20%程度とするなどして,時間をかけ生長量見合いの伐採に近づける必要がある。
また,現在の豊かな社会においては,量産以外に種の多様性,景観保全など生活環境がますます重要性を増してくる。現に,置戸町からは,サクラやコブシなど花木の多い森にして欲しいなどの意向もある。それ故,照査法試験林の目的に,新たに
④景観,種の多様性保全など環境保全に配慮した森づくりを進める
を追加していきたいと考える。
研修会終了後に、盛大に懇親会が行われた。その時の会場風景を記し、本稿を閉じる。
ご苦労様でした!!
以上です。ではまた!!