オオカミを我が山野に放す!(その2)      導入から25年、イエローストーンの想像を絶する環境の変化

カナダから導入し、定着したイエローストーン公園のオオカミの雄姿(後述文献より)

生地山梨では、平成20年頃からニホンジカの生息数が多くなり、裏山の櫛形山では、お花畑「アヤメが原」がシカの食害で花が消え、一部分を金網で囲い保護していた。 その麓の我が山林、ヒノキ、スギの人工林では、林床植生が僅かに見られたが、それはシカ喰わぬテンナンショウ、タケニグサ、トリカブト、フタリシズカだけであった。

この人工林を複相林化しようと、間伐して疎開部分にスギ苗を樹下植栽した。その後、苗木の成長は旺盛で、帰省を楽しみにしていた。しかし、数年後(2020年春)には苗木は見る影もなくシカに食い荒らされ、以後2回補植を行ったが、全て元の黙阿弥に帰してしまった。

2年続けて食害にあったスギの苗(2021.5)

この「空しさ」は言葉に言い表せない、以後、心の故郷、自家山林に足を向けない程である。  そこで思いついたのが、米国イエローストーン国立公園でのオオカミの再導入である。

きっかけは、日本オオカミ協会会長の丸山直樹[編著]、「オオカミが日本を救う!」であった。

この2月、国民森林会議からの「国民と森林」誌への原稿依頼があり、それに便乗して、本州各地ではバイオマス火力発電の燃料などとして高齢人工林が皆伐され、その跡地に植林するが、殆どがシカの食害にあって成林出来ず林地は荒廃し、大雨毎に洪水や崩壊が発生しているという。また、北海道でも、近年エゾシカが急増し、生息密度が平均して森林100haに14頭と被害水準の10倍も高くなり、このまま推移するとやはり森林崩壊が危惧される状況にある。そのため、欧米で成果を上げている「オオカミの復活」が早急に望まれる、と記した(「国民と森林」150号)。

これに対して、友人から、「イエローストーンではオオカミが増えて近年個体管理が始まった」とのコメントがあった。

私はそれについて詳しい知見を持っていなかったので、早速、イエローストーン公園でのオオカミの最新情報について、インターネットで検索し、その後の経過を詳しく知ろうと思った。

イエローストーン/オオカミ再導入 で検索すると(2020.07.17 カラパイア

1995年14頭の狼が森林に放たれた。23年後、まさかこんな結果をもたらすとは誰1人想像もしなかった。

と、書き出しの次のような内容の紹介があった。その結果は、わたしも含め、想像を絶するモノであった。

①イエローストーン公園で野生の狼が、最後に駆除されたのは1926年。以来、70年にわたり、狼の獲物であったエルクの数が大幅に増加。捕食者に狙われるおそれの無くなったエルクはのびのびと生息、飛躍的に数を増やしていきます。

②1995年、そんな「鹿の楽園」に再び狼が戻ってきます。行政により人為的の放たれた14頭の狼でした。

③「餌の宝庫」は絶好の狩り場と、狼の群れはエルク狩りに精を出します。これまで、天敵と無縁のエルクの生態は一転、捕食者の狼から逃げ迷うようになります。

④行政は、何故この様なことをしたのでしょうか? その理由は危機的状況まで増加したエルクの数にあります。エルクは、ポプラなどの原生林の若芽や幹の皮を剥ぎ取り食べてしまい、国立公園全体に甚大な被害を及ぼしていたのです。

⑤ポプラ、柳類の木々は大幅に減少し、それにより、ビーバー、ウサギ、狐などの小動物や鳥類の生息数は激減し、広大な国立公園の生態系のバランスは大きく壊れていきました。深刻な事態を受け止めた行政は、狼の導入を決断、カナダから輸送された野生の狼が国立公園に放たれました。

エルクはオオカミに見つからない安全な場所に避難している。

確実に定着し始めた他オオカミの群れ。

⑥これまで我がもの顔でくつろいでいたエルクは、狼を避け、見通しの良い開けた土地や、逃げ場のない地形から撤退。こうして、狼の補食に加え、エルクの活動範囲が抑えられ、繁殖率も下がり、個体数が大きき減少しました。その結果、エルクに駆逐され、失われた森の樹木が急速に生長回復し始めたのです。

⑦森林が回復すると共に、鳥が戻ってきました。また、水辺に木々が茂り、土壌が豊になったことでビーバーの個体数が増加。ビーバーの造るダムによって、川の流れが適度に遮られ、魚や水鳥が生息しやすい環境がもたらされました。豊かな水辺にはカワウソも姿を現すようになりました。

⑧さらに、狼不在の間、森の捕食者として幅をきかせていたコヨーテが狼に駆逐された結果、コヨーテの餌となっていたウサギ、野ねずみ、ジリスなどの小型動物が増加。するとそれを補食する狐やイタチ、アナグマ、猛禽類の生息環境が改善され、これらの個体数が順調に増加していきました。

⑨しかし、狼のもたらした変化は、それだけではありませでした。これまで岸辺の土壌を削りながら広く浅く蛇行していた川の蛇行が減少し、土の浸食、崩壊が減少し、川幅が狭くなり、水深が深くなったことで魚などの水中生物が生息しやすい川へと生まれ変わったのです。

⑩狼の再導入によって、広大な国立公園の生物多様性が増え、生態系だけでなく、環境(景観)までもが本来の姿を取り戻したのです。

数度に亘る再導入で放たれた計166頭の狼は、生息範囲を順調に広げ、2009年には近隣のアイダホ、ワイオミング、モンタナの3州で個体数約1700頭、その内イエローストーン国立公園には約100頭が生息しているという。さらに、最新情報では、イエローストーンでは300~350頭(2022)となっているという(Journal of Animal Ecology (https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/1365-2656.13200))。

この国立公園の広さは約90万haで、100ha当り生息密度は0.03頭となり、一方、エルクはかっては2万頭もおり、狼の導入により定着した生息数が6,000~8,000頭となり、この密度は、狼の1/20以下であり、オオカミの個体数管理をするほどになってはいません。

なお、この報告書には、乾燥した年の冬、野草(食糧)が少ない時には、大食の老いたオス(体重350kg)を狩り、雌(200kg)や子鹿の餌を確保するなど人知を越えた何万年もの野生の智慧で、生態系を健全に保つために日夜かけずり回る等、狼の数々の活動が記されていますJournal of Animal Ecology  Volume 89.Isseu 6/p.1511-1519)。

以上を踏まえ、オオカミの導入には様々な意見があろうかと思いますが、今の私は、森林・林業のために、「我が国土にオオカミを蘇らせ、その数を増やすことに努力していきたい」と思っています。

同時に、多様なご意見を集め、更に検討を重ね、より良い方策を構築して行きたいと思っています。ご支援をよろしくお願いします。

ではまた!!

コメント

  1. 山根 より:

    日本に狼ですか?