空飛ぶ樹冠 アーボリカルチャーに出会う。

寺境内での伐木作業 (僧、伽藍、クレーン、大杉の樹群)

札幌の我家の狭い庭のソメイヨシノは、萌芽更新のため30年余で直径50cmにも成長し、家族からその処分を求められていた。 毎年淡い見事な花を見せてくれるサクラも、通行人は見上げて賛美してくれるが、家族や周囲は落葉などで100%喜んでくれない。

そんな時、2020年春の林業誌「森林技術」に、豊田市の中当神社の樹齢約400年のスギ御神木の伐採記事が載った。これを機に我家も桜の大枝を少しずつ剪定し、数年後に巻枯らしで処分することにした。

今回、山梨の生家処分で帰省した際、菩提寺「妙了寺」の大杉伐採の情報を得た。早速当日の朝7時に訪れると、既に広い境内の一角、鬼子母神堂の前の10本程の大杉に白い細紐が巻かれ、2人の若い僧が伐採関係者を前に経を上げ、カスタネットのような仏具でカチカチと音を立てしながら樹木から「仏抜き」をしていた。

お祓いは1時間ほど続き、工事期間中の安全祈願が行われた。

お祓いが済むと、近くに停めてあったクレーン車の腕を伸ばし、高さ40m程の先からロープを下ろし、チェンソーマン(杣夫)を吊り上げ、地上20m程の樹木の先端から1/4ほどの高さで止め、幹をワイヤーでしっかり固定し、杣夫は更に2m程下げられ枝に足場を定めると、腰に下げたチェンソーを外してエンジンを掛け、地上15m位の高さで杉の幹の切断を始めた。切り終わるとクレーンはその先端部分を高く吊り上げ、回転し、作業場所に吊り下ろした。地上ではワイヤーを外して枝を払い始めた。更にプロセッサーで枝払い、玉切り、土場に集積し始めた。

それが終わると、クレーンは再びもとの立木に戻り、杣夫を更に5mほど下げ、同様に伐採した部分をつり上げ、作業場に下ろした。そして3回目は地上5mほどの位置で切断し、樹冠を釣り下ろすと杣夫も下ろし、次の木に移り同様な作業を始めた。

この間30~40分位であった。夕方再び見に行くと、20~30m四方の範囲に太い幹が10数本、円柱のように地上に立っていた。近くには木口が赤~黒味を帯びた材木の山が見られた。

翌日、整備された現場に伐根を見に行くとの、根元年輪数はいずれも65前後で、胸高直径は40~60cmであった。幹には空洞や腐食はなく全て健全木であり、スギ特有の清々しい香が一帯に漂っていた。これから生長し大スギになるはずのもので、私より遥かに若い木であった。

私が子供の頃には、直径1mを越える巨木が一杯あったのに、今では全て姿を消した。昭和23年4月8日のお釈迦様の誕生祭に発生した大火で、この名刹も山門など一部を残して全焼し、焼けたスギの大木も倒され、その後に植えられたスギの木も、生長すると落ち葉や枯れ枝のために境内の掃除が大変と太いものから伐採される羽目になったという。

当日ここに集まった杣夫を始め関係者は、殆どが昔からの顔なじみであり、お祓い後、『御神木として少しは残した方がよいのに』などと言っていた。

高齢・少子化はこんな形でも農山村に暗い影を落としている。

ところで、このアーボリカルチャー 今は亡き息子の「あこがれ」の仕事だったんだよ‼

では、また!!

<参考>

アーボリカルチャー:巨樹・老樹などを病理、生態等の観点から捉え、適性に管理すること。社会空間の中で樹木を維持、育成するための学術・技術の体系。 主に造園関係者や樹木医に活用されている。(吉見次郎/特殊伐採・アーボリカルチャーの技術を活かした森林・樹木管理/森林技術 2020 No.938 より)

コメント

  1. 山根 より:

    いわば立ち枯れですね