アライグマのワナとそこに集まる生き物たち

ワナ周辺の撒餌をあさるアライグマ(自動カメラ2004.7)

平成11年、全国に先駆け、北海道は野生化アライグマの捕獲・調査を開始した。農業被害や未知の病気への感染、生態系への影響等を危惧しての取り組みである。私は、当時S公社に勤めており、先輩Mさんとこの事業に取り組むことになった。

その経過は、私のHPに既に紹介済みである。ご覧いただければ幸甚である。全てが始めてのパイオニアとしてのスタートであった。勿論、先発として北大の池田先生の率いる「アライグマ研究会」があり、赤松さんの「エンビジョン」が活動していたが、事業としては…

ここから基本技術を学び、独自の捕獲技術の集積・開発をしていった。

最初(H11)年は、長沼丘陵を中心に、50個の箱ワナ(連続21夜)を1セットとして7~10月までの4カ月に9ローテーションを重ね、約450ワナ地区で237頭のアライグマを捕獲した

それから10年間に約3,000頭のアライグマを捕獲した。

しかし、ワナを設置すると、必ず目的外の生き物が誤って(錯誤)捕獲される。これは混獲といわれ、野生生物管理上、または捕獲効率上大きな課題である。混獲動物は、毎回速やかに放逐されるが、同一個体(特にタヌキとノネコ)が餌付けされたように何度も捕獲される。

下図は、平成14~18年度の年平均のワナ稼働状況と混獲動物の比率(%)を示したものである。 これによると、年間 約14,000ワナ・日のうち約8割がワナをかけたままの状態にあり、10%がワナは閉じているが獲物なし、さらに10%に他の動物が混獲されている。その結果、総ワナ・日に占めるアライグマ捕獲率はわずか2.5%であり、8~9割のワナが有効に稼働していない状況にある。この改善が、捕獲効率を高め、野外からアライグマ排除上の大きなカギであると考える。

図は ワナの開閉と混獲状況(H14-18年度平均)

その後、S公社を退職して約10年後の令和2年、世の中が新型コロナのまん延で騒然としているとき、北海道は、新たに近代兵器で武装したアライグマ捕獲作戦を開始し、その後掲者育成の一貫として野生物動農業被害アドバイザーの私も関わることとなった。

近年、道央(空知地方)で野生化アライグマが増え続け、農業被害が甚大となり、国・道は、新たなアライグマ根絶方策を打ち出してきた。それは「ICT活用の効率的なアライグマ根絶モデル事業」である。この事業に手伝ってくれないか、と言うわけである。

その概要は、全ての箱ワナに自動撮影装置(センサーカメラ)を設置し、このカメラがある動体に反応すると「3枚の静止画と30秒の動画(1セット)」を自動的に撮影するものである。 これに加えて、特定のワナに自動発信装置を設置し、獲物が掛かれば、当該町役場屋上に設置された「無線式捕獲パトロールシステム」『ほかパト』に通報される、そこから子機に連絡が入り、待機しているパトロール隊員が早速、獲物の回収にいくという仕組みである。そしてアライグマなら即捕捉し、錯誤捕獲なら即座に解放することになり、あらゆる動物に与えるストレスの最小化や誤って捕獲されたネコなどペットのリアルタイム開放が達成されるという仕組みである。勿論、毎日のワナ巡回点検からはワナ管理者は解放される。

下図は、南幌町夕張太地域で、アライグマの捕獲期間中に誤って捕獲された動物類である。この期間の捕獲アライグマは46頭である。

錯誤捕獲動物の内訳(6-7月の6週間50ワナ)

しかし、自動カメラの撮影数量はすさまじい。50ワナを6週間継続し、その間1ワナ当たりSDカード3~4枚を使う。1枚のカードには200セットもが撮影されている。これを1件ずつ被写物を確認し、動物が写っていたらその種の同定と、アライグマなら何をしているのかその生態を記録する作業である。

農水省の野生物動農業被害アドバイザー と言う職種柄これに関わることになり、ここ1年ほどK社のこの仕事を手助けしてきた。 私は、十年程前までほぼ10年間、アライグマの捕獲を続けてきたので、大方の予測がつくが、今回の高性能カメラに映し出された写真や動画は、想像を絶する光景であった。 多様な生物が昼夜を問わず餌を求めて動き回る現実に、改めて「生きる」ということの持つ意味を考えさせられた。 そこで、その中のいくつかを皆さんにご披露し、自然に対する理解や認識を改めて頂きたいと思い公開することにした。先ずは、ワナに集まるアライグマである。

大半が深夜、0時頃が多く、日中でも1頭から3頭、夜中には最大は6頭(親1子5)もが、一家揃っていそいそとレストランにでも行くかのように身を寄せ合って動き回る。何ともすさまじい光景である。デルスー・ウザーラにあるように、ウスリー地方の山中でイノシシの1群が、あたかも黒い絨毯の形を変えながら移動して行くようが描かれていたが、そんなイメージが浮かぶ。写真は、親子がふれあい、群がりながらワナに近づき、撒かれた餌をあさっている。次はその他の動物や鳥である。

多いのはネズミで、ネズミはワナの内側に簡単に横から入り出て行き、大きなネズミはそうはいかず時々ワナに掛かり閉じこめられる。大型動物ではネコ、キツネが多い。キツネは、常に腰を落として警戒し、慎重そのもの。親ギツネは入口に近づいたり中に入って餌を食べることはまずない。時にはエゾシカも餌に引き寄せられてきる。

慎重に周囲を警戒しながらワナに近づくキツネ

鳥は色々集まって来る。大半が日中だが、夜中にもワナに訪れるアオジ? 珍しい鷲鷹類のオオタカ、ハヤブサ、よく見るトビ、それにハシボソガラス、モズ、スズメ、シジュウカラ、ノビタキ、ホホアカ、ハクセキレイ、アカハラなども。 殆ど見たこともないベニマシコ もたまにやって来る。

こんなで、机の上での探鳥会である。 解らないものが多いが、幸運にもお隣の鳥先生Y氏に聞いて何とか纏めている。

では、また!!

参考(わたしのHPから)

1. 野生化アライグマの捕獲とその生態

2. 私の森林・林業などの研究成果(Ⅲ)

3. 2020再び「アライグマ」に挑戦!! 

4. アライグマへの挑戦 その2

以上です。